解体工事の関係法令・届出まとめ ~解体業の営業・届出編~
解体工事に関する決まりについて、法律をはじめとした関連法令や許認可・必要な届出の解説を2編に分けてお届けしています。今回は「解体業の営業や安全、届出」と特に関わりの深い法令を紐解いていきます。
ほとんどは解体業者に対して課せられた命令・規則となりますが、もちろん解体工事の依頼主に関わってくる部分も少なからず存在しています。
解体工事というものは人生でそう何度も経験するものではありません。初めてのことに漠然とした不安を抱える方がほとんどだと思いますが、あらかじめ関連する知識を頭に入れておくことで、不安な気持ちを少しでも軽くしておきましょう。
※後編記事「解体工事の関係法令・届出まとめ ~リサイクル・環境編~」はこちら
豆知識
「法令」とは、法律・政令・省令等の総称です。各法令の優劣関係は「法律(国会の議決で制定される命令)>政令/施行令(内閣が制定する命令)>府令・省令/施行規則(内閣総理大臣および各省大臣の発する命令)>条例(地方公共団体の法令)etc.」となります。法律が(憲法・条約に次いで)最上位にあたる法令で、下位の命令は全て法律に基づいて制定されるものです。記事の中でも一部法律や規則が混在していますので、上記の関係性についてご留意ください。
なお、「通達(行政内部の命令)」や「告示(国民への通知)※一部を除く」も法令に類似していますが、厳密にはそれらは法令に含まれません。
解体業の営業に関連する法令・許認可
そもそも「解体業」とは“建物などの解体を主な生業とすること”を指しますが、その解体業を営むためには必ず受けなければいけない許可/登録があり、さらにその大元となる法律が存在します。
大枠としては、「建設業法」で建設業に係る営業権についての規則を定めており、この建設業法でカバーできない範囲を「建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)」で定めている、といった格好です。
早速それぞれの詳細を確認していきましょう。
【関連リンク:「解体用語辞典:解体業」】
建設業の許可(建設業法3条)
建設業の許可とは、工事一件の請負代金が税込500万円以上の建設工事(解体工事を含む)を行う事業者が必ず受けていなければならない許可のことです。
この許可には大きく2つの区分があり、営業所の数や所在地によってどちらの区分(「国土交通大臣許可」もしくは「都道府県知事許可」)で許可を受けるかが決定します。
(具体的には、1つの都道府県内であればいくつ営業所があっても「知事許可」を、2つ以上の都道府県に営業所を置いている場合は「大臣許可」を受けるという決まりです。) さらに、建設業の許可は営業する業種(全29種)ごとに受ける必要がありますが、解体工事業を営む場合には、施工内容によって「建築工事業」「土木工事業」「解体工事業」のいずれかの許可を受けることになります。
※平成28年5月31日までは「とび・土工工事業」の許可でも解体工事業を営むことができましたが、平成31年(令和元年)6月1日以降に新規で許可を受ける場合は、「解体工事業(平成28年6月1日に「とび・土工工事業」から独立・新設)」の許可が追加で必要となりました。
すでに「とび・土工工事業」の許可を受けていた事業者も対象となるため、令和2年となった今でも上記3種(「建築工事業」・「土木工事業」・「解体工事業」)いずれの許可も受けずに解体工事業を営んでいる解体業者はレッドカードということになります。ご注意ください。
解体工事業の登録(建設リサイクル法第21条)
工事一件の請負代金が税込500万円未満の解体工事(「軽微な建設工事」といいます)を主として行う解体工事業者は、上述した「建設業の許可」を受ける必要はありませんが、その代わりに「解体工事業の登録」を受けなければなりません。
(すでに建設業の許可を受けている事業者は、解体工事業の登録を受ける必要はありません。)
こちらは大臣や知事による区分はなく、全て都道府県知事による管理の下となります。 登録は「主に解体工事を行う区域を管轄する都道府県知事」から受ける必要があり、元請・下請の区別はなく どの事業者も平等に登録が必要です。2つ以上の都道府県で工事を行いたければ、それぞれの都道府県知事に登録を(例えば大阪府、兵庫県、奈良県を工事対応範囲とする事業者は、大阪府知事・兵庫県知事・奈良県知事から別々に登録を受けなければなりません。)
ここまでの内容をまとめると、日本国内の解体事業者は
・建設業の許可を受けた場合では「請負代金が税込500万円を超える解体工事」も施工可能
+さらに、
・国土交通大臣許可の区分で受けた場合は「全国どこでも」施工可能
・都道府県知事許可の区分で受けた場合は「登録を受けた都道府県のみ」で施工可能
・解体工事業の登録を受けた場合では「請負代金が税込500万円未満の解体工事」のみ施工可能(施工可能範囲は「登録を受けた都道府県」のみ)
ということになります。
解体工事業者が受ける許認可について、ざっくりと全体像が見えてきたでしょうか?
Point:許可/登録が本当に行われているかどうかを依頼主が確認する方法はある?
工事を依頼する解体業者が、これらの許可や登録をきちんと受けているかどうかを“依頼主であるあなた”が確認する方法は2つあります。
まず、最も手っ取り早い方法は「(業者の運営する)ウェブサイト上に掲載されている許可番号を探す」ことです。番号をサイト上に自ら載せている業者であれば、より安心感も増しますよね。
※ただしこの確認方法は、ウェブサイトを所有している業者である場合に限った方法かつ情報の信頼度はやや劣りますので(可能性は低いものの、虚偽の番号や期限切れの番号を掲載しているケースがあるため)、確実に許可番号を押さえておきたい場合は次の方法をお試しください。
次に、ウェブサイトを持っていない業者であったり、もしくはウェブサイトの信憑性が著しく低い場合(全く更新されている気配がない古いサイトである等)は、一番確実な「(依頼する業者の所在地がある地域の)役所に業者の許可番号を直接確認する」という手段を使いましょう。
大抵の市区町村役場では「土木建築部技術・建設業課」もしくは「都市総務課」といった名称の課で情報を扱っていることが多いため、該当する課の担当者に繋いでもらいましょう。
一手間かかる方法ですが、ここで確認できれば少なくとも最低限の法令を遵守しているということが分かりますので、どうしても不安だという方はお試しください。
解体工事の安全に関連する法令
労働安全衛生法
労働安全衛生法とは、解体事業に携わる作業員の身の安全を確保するために定められた法律です。
作業中の転落事故といった労働災害が発生した際、この法律に基づき(第21条・事業者の講ずべき措置等)原因の究明が事業者に求められます。
依頼した現場の中で労災事故が発生したとしても責任に問われるのは事業者ですので、依頼主が何かしらの責任を負うということはありませんが、もし工期中に安全面について何か引っかかることや気がかりな行動が見られれば、遠慮せずに担当者や第三者に相談してみてください。作業員の命を助けることに繋がるかもしれません。
石綿障害予防規則
【関連リンク:「今知っておきたい!『アスベスト』のあれこれ」/「解体用語辞典:アスベスト(石綿)」】
上記の「労働安全衛生法」に基づいて定められた規則(厚生労働省令)です。
この規則は、解体工事に携わる作業員が石綿(アスベスト)によって肺がんなどの健康障害を引き起こすことを予防するために、事業者に対して課せられたものです。
労働安全衛生法と同じく、事業者が守らなければならないものではありますが、「アスベストの使用有無」は解体作業員だけでなく依頼主や周辺住民の健康状態にも関わってきます。
建築の時期等から少しでもアスベストの使用が疑われる場合、不安である旨を工事責任者に訴えてみましょう。誠実な業者であれば調査を行なっている(・行なってくれる)はずです。
道路交通法(道路使用許可)
解体工事を行う際、建物の建っている敷地が広大な場合は、必要車両の駐車や解体作業が「敷地内のみ」で済むために特段問題は無いのですが、住宅街や都心部などでの解体工事では道路にはみ出して工事を行わなければならないケースも多々あります。
そのような場合は、道路上での事故などを防ぐため「道路使用許可」を得て(申請先:施工地域の警察署)から工事を開始することが道路交通法によって定められています。この許可の申請を怠った場合、事業者はもちろんのこと、依頼主まで責任(※)に問われてしまう可能性がありますので要注意です。
※…3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金(道交法第119条)
申請期日は工事開始の7日~10日前(警察署によって前後します)等と定められていることがほとんどです。公道にはみ出す必要があると分かっている工事であれば、解体業者は当然期日までに申請を済ませているはずですが、もしも不安な場合は道路使用許可について依頼した解体業者に尋ねてみてください。
解体工事前後に必要な「届出」、「登記」
解体工事前後には、依頼主が把握しておかなければならない届出が2種類存在します。
解体工事の「前」と「後」に分けて解説してきましょう。
解体工事“前”の届出(建築リサイクル法に関する届出)
【関連リンク:「ご存知ですか?解体工事の『事前届出』」】
建築リサイクル法に基づき、ある条件を満たす建物を解体する場合には、着工の7日前までに「事前届出(建築リサイクル法に関する届出)」を行う必要があります。(申請先は各都道府県知事となります。)
その条件とは、
◎特定建設資材(コンクリート/コンクリート及び鉄から成る建設資材/木材/アスファルト・コンクリートの4種類)を用いた建物
◎延床面積が80㎡以上(※解体工事の場合)の建物
の2点です。
この届出は本来、依頼主が自ら作成し各自治体の管轄窓口へ提出しなければならないということになっています。しかし実際のところ、便宜上 解体業者が委任状とセットで用意してくれるケースがほとんどでしょう。
依頼主は委任状の署名欄にサインすることで形式上は問題ありませんが、流れ作業と思わずに、内容にもきちんと目を通し理解した上でサインするようにしてください。
なお着工7日前までに届出の提出がない場合、依頼主も責任に問われることになりますので、いつまでも事前届出について触れてこない(委任状へのサインを求められない)場合は依頼した解体業者にしっかりと確認しておきましょう。
解体工事“後”の登記(建物滅失登記)
【関連リンク:「解体用語辞典:建物滅失登記」】
建物の解体工事を終えたら、その建物の持ち主には不動産登記法(第57条)に基づき1ヶ月以内に建物滅失登記を行う義務が発生します。
建物滅失登記とは、法務局の登記簿上から「その建物が存在しなくなったこと」を申告する届出のことです。万が一この登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料に処されることがありますので、面倒でも必ず手続きを行うようにしましょう。
【関連リンク:「『解体は無事に終わったけど…。』ご存知ですか?解体後のアレコレ」】
それだけでなく、手続きが不完全なまま放置してしまったり、手続き自体を忘れてしまうとその建物が課税台帳から外れず、不要となったはずの固定資産税がいつもまでも徴収され続けてしまうこともあり得ます。
このように、建物滅失登記を放置するメリットは全くと言っていいほどありませんので、どうかお忘れなきようご注意ください。
まとめ
解体工事の関連法令や届出について、今回は「解体業の営業や安全、届出」と特に関わりの深い内容をご紹介いたしました。
本記事の中で依頼主が心得ておくべきポイントとしては、解体工事を依頼する業者が「解体業の営業に関する許認可をきちんと受けているか」という点と、「着工の7日前までに『事前届出』を行う」こと、また「解体工事終了後に必要な届出(建物滅失登記)を確実に済ませる」こと、この3点が最も実用的かつ重要なものになります。
また、関係法令からは脱線しますが、インフラ(ガスや電気・水道等)関係の廃止手続きは解体業者の介入できる範囲ではありませんので、事前にご自身で済ませておかなくてはなりません。
※水道に関しては、解体業者が工事中の散水のため使用するケースがあるので、止めてしまう前に依頼する業者へ確認しておきましょう。
★お時間がありましたら、引き続き後編記事(「解体工事の関係法令・届出まとめ ~リサイクル・環境編~」)もご覧ください。