浄化槽の撤去 ~解体方法と費用について~
日々生活を送っていく中で、「浄化槽」の存在を意識する機会なんてほとんど無いですよね。
しかし、私たちの暮らしを快適に、そして清潔に保ってくれる“無くてはならない存在”であるということは何となく想像できるかと思います。
そんな重要な役割を持つ「浄化槽」。普段は気にかけていなくても、人によっては人生のあるタイミングで突然、浄化槽と対面することになるかもしれません。
その多くが、「解体工事を行う時」です。
今回は、そんな浄化槽の役割や種類といった基本的な知識から、解体費用・解体方法について、詳しく解説してきます。
そもそも浄化槽とは? 役割とその特徴
浄化槽とは、一般家庭などから排出される「汚水」を人工的な水処理技術や微生物の力によって衛生的に問題のないレベルまで分解・処理し、河川等へ放流する装置のことを言います。
最も一般的に使われているのは「FRP(繊維強化プラスチック)」という樹脂製のもので、内部では物理処理(ろ過など)と生物処理(微生物による分解)が行われています。材質の特性から20~30年で劣化することが多く、定期的に修理や交換といった保守作業が必要となります。
※古くから存在するコンクリート製の浄化槽もありますが、現在ではその数はあまり多くありません。
浄化槽の最大の役割は、水洗便所から排出される糞尿(し尿)やキッチンなどから排出される生活排水(雑排水)を綺麗な状態にすることです。
下水道の整備された場所では浄化槽の必要性がない家庭も多く、実際に浄化槽のない住宅も多く存在しますが、必ずしも全ての地域で下水道が整っているわけではありません(全国のおよそ20%の家庭は下水道が普及していないと言われています)。
そのような場合に活躍するのがこの浄化槽で、汚水を直接川に流すことのないよう、下水道と同等の浄水処理を行ってくれるのです。
設置される場所が目立たない所(地下など)である場合が多いため、実は毎日お世話になっていても、その姿かたちを一度も見たことがない、もしくは存在すら知らなかった、というケースも少なくないようです。
浄化槽の種類
いわゆる浄化槽には、大きく分けて2つの種類が存在します。
単独処理浄化槽(みなし浄化槽)
ひと昔前(昭和30年代後半~50年代頃)、日本で浄化槽と言えばこの「単独処理浄化槽」を指すことが普通でした。(以下「単独浄化槽」)
この単独浄化槽は、トイレからの排水=し尿の処理に限定されたもので、生活排水の処理まではできないものでした。平成12年に新設が正式に禁止されるまでは、キッチンや洗面所から排出される汚水の大多数はそのまま川に放流されていたのです。
ただし、新設の禁止によって全ての単独浄化槽が無くなったかというと、そうではありません。あくまで「新設」が禁止されただけで、現存する単独浄化槽を直ちに廃止しなさい、という意味ではないからです。むしろ未だ単独浄化槽を使用している家庭の方が多く、全国の浄化槽を設置している一般家庭のうち60%以上は単独浄化槽のままだと言われています。
残念ながらまだまだ現役と言える単独浄化槽ですが、平成13年の4月に浄化槽法が施行されたことによって、より処理能力の高い「合併処理浄化槽」の設置が義務付けられました。
古くなった単独浄化槽は、ただでさえ低い処理能力が更に衰えてきていることが想定されますので、環境保全のため早急に合併処理浄化槽へ交換しておきたいところです。
合併処理浄化槽(合併浄化槽)
単独浄化槽より稼働数が少ないとはいえ、これから新たに設置する浄化槽は必ず「合併処理浄化槽」となります。(以下「合併浄化槽」)
冒頭の「浄化槽とは?」でも触れた通り、水洗便所から排出される糞尿(し尿)だけでなく、キッチンなどから排出される生活排水(雑排水)も綺麗にしてくれる浄化槽で、先述した単独浄化槽の言わば“上位互換”にあたります。
交換するにも工事費用がかさむことなどから、この合併浄化槽を使用しているのは全国の浄化槽を設置している一般家庭のうち40%にも満たないと言われていますが、今後段階的にその割合を増やし、主流となっていくでしょう。
浄化槽の有無、種類の確認方法
ここまでお読みいただいて、ふと「自分の家にはどちらの浄化槽が設置されているのか?」と思った方もいらっしゃると思います。
そこで、自分でその存在を確認する方法と、どうしても見つけられない場合の対処法をお教えしましょう。
マンホールの有無/枚数で確認!
浄化槽が設置されている家庭には、庭や駐車場に必ず2~3枚のマンホールがあります。多くはプラスチック製であったり、無地に模様やアルファベットが描かれた鋳物の蓋で、2枚なら2枚、3枚なら3枚まとまって設置されているはずです。
逆にそうしたマンホールがどこにも無かったり、下水道のマンホールが発見されるようなら、浄化槽は設置されていないという判断ができます。(下水道のマンホールには各市町村のデザインが施されていて、「◯◯下水道」と書かれていたりサイズも大きいため、すぐに見分けられると思います。)
浄化槽が設置されていると分かったら、次は種類の判別です。この枚数が「2枚」なのか「3枚」なのか、はたまたそれ以上なのかによって、その種類を簡易的に判断することが可能です。
基本的には、単独浄化槽なら2枚、合併浄化槽なら3枚という見分け方ができます。3枚以上なら確実に合併浄化槽で、より規模の大きなものが設置されていると思ってよいでしょう。
※ただし、近年では5人槽~7人槽といった最小規模の浄化槽であれば合併浄化槽でもマンホールの数が3枚よりも少なく済む場合もあり、2枚だからといって必ずしも単独浄化槽が設置されているとは言えない、という点にご注意ください。
(マンホールで判断がつかない時は、お風呂やキッチンなどの排水を確認します。浄化槽につながっていれば合併浄化槽、そうでなければ単独浄化槽ということになります。)
よく分からない時は…
自分ではどうしても判断できないという時は、浄化槽の専門家(管理会社や清掃業者)、ハウスメーカーさんなどに相談して確認してもらう方法もあります。
浄化槽の解体(撤去)方法
浄化槽と初めて対面する瞬間として最も多いのが、この「解体工事」を行うタイミングです。
設置から十数年しか経っていないけれど役目を終えて使用しなくなった浄化槽、劣化により交換しなければならなくなった古い浄化槽など、撤去するタイミングはいつやってくるか分かりません。
地下にひっそりと鎮座する浄化槽、一体どんな方法で解体をするのでしょうか。
大きく2種類に分けてご紹介します。
全撤去
現在、最も推奨されている浄化槽の処分方法です。浄化槽本体の他、槽内の部材や装置を含めた全ての部分を解体し、工事後は地中に何も埋まっていない状態にする方法となります。
費用も3つの中(全撤去、埋め戻し、埋め殺し)で一番かさみますが、衛生面・その後の土地の利便性・法的な面において、全撤去より安心できる処分方法は他にありません。
なぜかと言うと、以下に紹介する「埋め戻し」「埋め殺し」といった砂埋めによる処分方法には、気を付けていても“不法投棄”に該当するリスクがあるためです(工事後に汚水や汚物が残っていた場合など)。近いうちにその場所でもう一度同じタイプの浄化槽を使用する予定でもない限り、「費用が安い」以外にメリットのない砂埋め処分は避けるべきであると言えるでしょう。
埋め戻し・埋め殺し(砂埋め処分)
埋め戻しとは、汚水を一掃した後、浄化槽本体の3分の1程度だけ解体し、浄化槽内の装置や部材などを取り除いたら、残りの本体は底に穴を開けそのまま地中に埋設してしまう方法です。
埋め殺しとは、埋め戻しよりもさらに簡易的かつ安価な工事で、浄化槽内の装置や部材などを取り除かずに“(汚水以外は)ほとんどそのままの状態で”埋設してしまう方法です。
いずれも必要な作業が全撤去よりも少ないため、金額もそれなりに抑えることができますが、手放しでお勧めすることのできない方法です。
例えばその土地を売却することになれば、埋設した浄化槽の残りの部分をまた掘り返して最後まで解体しなければならず、結局は全撤去を行うことになるからです。
最終的に「工事の半分を先延ばしにしただけ」という結果となる上、総合的に見れば一回の工事で全撤去した場合よりも工事総額が膨らんでしまいますので、可能であれば全撤去を選択するようにしましょう。(ハウスメーカーや解体業者がこうした砂埋め処分を勧めてくるケースも稀にありますが、そのような場合は自治体など第三者の意見を仰ぐようにしてください。)
なお、行政が「合理的な理由がある」と判断した場合に限っては、埋め戻しや埋め殺しといった処分が認められるケースもあります。事情があって、どうしても全撤去が最善策と言えないような場合は、お住まいの地域の自治体に相談してみるもの一つの手段です。
浄化槽の解体費用
まずは、住宅の解体工事と一緒に浄化槽を撤去する場合の費用をご紹介します。
住宅の解体工事と同じく、現場周辺の状況(立地条件、道路幅など)や浄化槽の種類・大きさなどよって相場は変動しますが、約3~6万円が追加費用の目安(一般的な5人槽~7人槽の場合)となります。
次に浄化槽の撤去のみを行う場合ですが、約5~10万円とやや割高になります。住宅の解体と一緒に行う場合と同じく、浄化槽の種類や大きさのほか、設置環境などによって金額に振れ幅が生じますのでご注意ください。
また、いずれの場合も撤去前の最終清掃・消毒作業が必須となりますので、清掃に全くの未着手である浄化槽の場合、プラス3万円前後の清掃費用を見ておきましょう。
浄化槽を解体(撤去)する時の注意点
実は、上下水道が整備されているからといって、その家には「絶対に浄化槽が存在しない」とは言い切れません。
下水道工事が入る以前からその土地に住んでいた人が、浄化槽を撤去しないまま(砂埋め処分を行って)そこを離れてしまった場合、次に住む人がその存在に長年気付かないケースは無きにしもあらずで、「家の解体工事を始めるまで浄化槽の存在など全く想像してもみなかった」と焦るのも無理はありません。
そうした「突然の浄化槽の出現」に冷静に対処するため、撤去前後に忘れてはいけないポイントを2つご紹介します。
撤去前:浄化槽内の最終清掃・消毒作業
浄化槽を撤去する前に必ず行わなければならないのが、浄化槽内の清掃・消毒作業です。これは浄化槽法によって定められており、行政からきちんと許可を得ている専門業者に依頼し、確実に清掃してもらう義務があります。(この清掃業者の手配はご自身で行う必要があります。)
この清掃を行わずに撤去作業を進めると、汚水や汚物が地下水路などを通って周辺環境に悪臭や汚染といった影響を及ぼします。当然ながら工事自体も大変なものになりますので、「清掃をしないで撤去を始める」ということはまず有り得ないと思いますが、万が一そのようなことがあれば不法投棄で罰せられる可能性が大いにありますので、忘れずに手配するようにしましょう。
撤去後:「浄化槽廃止届出書」の届け出(都道府県知事)
上記の清掃作業や本体の撤去工事が全て終われば、その完了した日から30日以内に「浄化槽廃止届出書」という書類を都道府県知事に提出しなければなりません。
こちらも浄化槽法によって定められていますので、工事が終わったら必ず行ってください。
届出書の雛形自体は、各都道府県のウェブサイト上に掲載されていたり、自治体の窓口で申請すれば簡単に受け取ることができますので、忘れないうちに(できれば工事が終わったその日のうちに)書いて提出してしまいましょう。
まとめ
上下水道の整備が進んだ日本でも、地域によってはまだまだ身近な存在の「浄化槽」。
境のことを考えると、全国の浄化槽を全て合併浄化槽に移行するのが理想ですが、未だ半数以上は単独浄化槽であるという現実があります。
その理由の背景には、撤去費用を捻出できない・そもそも自宅の浄化槽について意識をしたことがない、といった事情が想像できますが、単独浄化槽の撤去工事に関しては、自治体によっては「10万円まで」等を限度に工事費用を補助する助成事業を用意している場合もあります。
費用についてお困りの場合、まずはお住まいの地域の自治体窓口に相談してみてほしいと思います。また、この記事を読んで少しでも浄化槽に興味を持った方は、ご自身の住まいやご実家の浄化槽が単独浄化槽でないか、今一度確認する機会を持っていただければ幸いです。