《解体小説》建替え編・第二章
第二章 「どこに建ててもらうべき?」
建築会社選びに関しては基本「任せる」と嫁とお袋に言われていたこともあり、これ以上自分の株が下がるのも癪だったので、少し気合いを入れて家を建ててくれるところを探し始めた。
やっぱりハウスメーカーに頼むのが無難なのかなと漠然と思い、まずは住宅展示場を見て回ることに。最初はどんなものがあるのか見学しにいくだけのつもりだが、予算のこともあるし、行く前に何の工事にどのくらい費用がかかってくるのか大まかなところを調べることにした。
予算の大半を占める建築費用だが、自分が気になっているハウスメーカーだと坪単価は60~80万円くらいが相場らしい。二世帯住宅は延べ床面積40坪くらいを考えているので3,000万円前後はかかる計算だ。これに外構工事費として200万円、解体に100万円ぐらいかかりそうなので、残りを引越しその他に使える算段だ。
こう考えると丁度、予算内に収まりそうで、なんだか拍子抜けした気分だが、すんなりいくに越したことはない。ただしまだ机上の計算に過ぎないので、色々と話しを聞いてからまた考えることにしよう。
週末に家族みんなで住宅展示場に行くと、結構な賑わいだった。同じぐらいの年代の人が多く、やはり家族連れで来ている。
これだけ各メーカーの戸建住宅が並んで建っているとなかなか壮観で、相乗効果もありサクっとどれかに決めてしまいそうな自分が少し怖い。
即断即決を男の美学としているが、ここは慎重に行動しなければ。なんてったっていつもの買い物とは桁が3つも違うんだから、後で後悔することだけはなんとしても避けたい。
場内には公園もあり屋台も立ち並んでいて、極め付けは特設ステージ上で戦隊ショーまでやっている。これはちょっとしたテーマパークだな。
「パパっ、ぼく向こうで遊んでくる!ママも一緒に行こうよ!」
悠太郎は到着するや否や、誘惑に駆られてステージに向かって一目散に走り出す。
「ちょっと待って!――私もついて行ってくるから、あなた、最初はひとりで見ていて?」
「おいおい本当かよ、しょうがねえな……。じゃあ、あとで合流しよう」
人の多いところが大の苦手な俺にとってはつらい場所だが、それでも二世帯住宅を建てようと言い出したのは自分だし、ここで文句を垂れるわけにもいかない。
ちょっと憂鬱な気分だが、一人で見て回ることにした。
初っ端に見たのはテレビCMでもおなじみの○○ハウス。外観はちょっと無骨な感じがして自分の好みにマッチする。
中にはすでに何組かの家族がいて、接客スタッフから説明を受けていた。俺には30代前半と思しき男性スタッフがついてくれ、案内をしてくれたが、話がうまくて感心させられる。
気づいたらかれこれ1時間以上経っていた。自分にもこれぐらいのトークスキルがあればもう少しうまく世渡りができるのになあ、と少しトンチンカンなことを思ってしまう。
建物は全体的にモダンな造りで落ち着いた印象を受けたが、20畳以上ありそうなリビングは窓を開け放てばテラスと一体となるようになっていてかなり解放感がある。
ネットで見たときよりも断然良く、危うく『これでお願いします!』と言いそうになるのを何とか堪え、とりあえずその場を後にすることにした。
嫁に電話してみたが、特設ステージでの催し物は終わったものの今度は次男坊がグズっているので、もうしばらく公園に居ると言う。
仕方ないからひとりでもう一軒ぐらい見ようとぶらぶらしていると、入口にかわいい受付嬢が立っているところがあったので、吸い寄せられるようにして中を覗いてみた。
が、特にこれといって惹かれるところもなく、受付嬢の営業スマイルだけが脳裏にこびりついて離れなくなる始末だった。
その後は家族と合流し一緒に見て回ろうとしたが、悠太郎はすでに満足したのか『早く帰ろう』とせっついてくるので、結局何社かのパンフレットを貰い連絡先を伝えて帰路に着いた。
翌日、会社の喫煙所で一服しているとき携帯を見るとやたらと着信履歴が残っている。留守電を聞くとどれもハウスメーカーの営業からだった。
「どっからそんなにかかってきたんだ?もしかしてお前、キャバクラでもハシゴして名刺渡しまくったんじゃねぇだろうなぁ?」
同僚の長谷川がボサボサの髪を掻きながら俺の携帯を覗き込み、いつもの軽口を叩く。
昨日住宅展示場に行ってきたことを話すと、
「お前、そういうところで連絡先なんか書いてきたら電話バンバン鳴るに決まってるだろ!」
ムカつく言い方だが、言われてみれば確かにそうだ。少し迂闊だったな。
「でもお前、ハウスメーカーで家を建てること、もう決めたのか?」
「違う違う、まずは見学。今後の参考にと思ってね。そういや長谷川の家も去年、家建てたんじゃなかったっけ?」
「そうだよ。でもウチは近くの工務店に頼んだ。本当は小洒落た設計事務所にお願いしたかったが、共働きでもない平リーマンの分際ではちょっときつかった」
「小洒落た設計事務所?お前の口からそんな言葉が出てくるとは意外だな」
「うるせぇよ。こう見えても結構こだわるほうなんだ。でもな、設計事務所に頼むのもありだと思うぞ。有名なところはちょっと敷居が高いかもしれないが、設計事務所なんて星の数ほどあるし、自分のフィーリングに合うところを見つければカッコいい家建てられるぞ!」
なるほど、その手もありか。アイツに言われるまでは思いもつかなかったが、ちょっと考えてみよう。
その後、時間を見つけて設計事務所探しを始めたが、調べると本当にいくらでも出てくる。単価はピンキリだし、もちろんデザインも様々だ。
自分に合ったところを探すのはなかなか楽しいが、設計事務所に頼むとなると打ち合わせ回数も多そうだし、建てるまでに時間を要しそうなので、面倒くさがり屋の俺に向いているかは微妙に思えてきた。
○○ハウスの営業からは毎週末、『参考プランの提案だけでもさせてください』という電話があるので、とりあえず伝えてある予算に見合ったプランを出してもらい検討してみることにした。
解体サポートからの解説
建築会社選びについて
家を建てる際に依頼する先としてはハウスメーカー、地域の建設会社&工務店、建築士に分けられます。
【ハウスメーカー】
住宅メーカーが用意するプランや標準装備になっている(価格の範囲に入っている)設備は、これまで家を建てて来た人の要望や声が集約されたものであるため、プラン、品質、価格等すべての面において“安定している”ところが住宅メーカーのメリットのひとつと言えるでしょう。
【地域の建設会社&工務店】
その地域で注文住宅を建てている会社。
その地域の気候や風土に合わせ地域密着の大工さんの良い点と土地探しからアフターケアまで総合的なサービスを提供するハウスメーカーさんの良い所を持ち合わせた中間的な存在とでも言うべきでしょうか。
【建築士】
人とは違う個性的な家、自分の希望を多く取り入れたい方は建築士(建築家)がオススメ。
第三者的な立場で工事の施工内容などもチェックしていただけます。建築工事の10%程度の設計料、工事管理料が必要です。