《解体小説》空き家編・第二章
第二章 「隣人からのクレーム」
先日、じいちゃんの三回忌を無事に終えて東京に帰ってくるやいなや、馴染みのある市外局番の知らない電話番号から携帯に電話がかかってきた。
「もしもし?健一か?隣の秋山だけど、まだこっちにいるん?
三回忌終わったんだって?いい加減に家を何とかせんかい!
夏場は虫がわいて出るし、冬は落ち葉が全部うちの敷地に飛んでくる。
地元の悪ガキがたまに勝手に家の中に入って遊んでるんよ。
知ってるか?
家の中でタバコもふかしているようだし、火事にでもなったらどうするん?」
……やべ。となりのハツヨ婆さんだ。
そうと分かっていたら出なかったのに……。
「あ~。そうだね。ゴメン。もう三回忌も終わったから近いうちに家の中を片づけて
いつかは建物も処分しようと思っていたんだよ。」
「だったらとっとと早くやっとくれっ!こっちは迷惑千万なんだよ!」
参ったな~。どうしたもんだか。時間がない。
毎日仕事で帰りは遅いし、最近では土曜日も毎週出勤。
課長(38歳 独身)の「お説教」という名目で遅い仕事を終えた後も「飲みニケーション」の毎日。課長は悪い人ではないんだけど、酒を飲むと話が長くて。
一方、彼女の小島彩子からはいろんな面(「ケッコン」とか)でプレッシャーもかけられ、ついに先週は半強制的に親御さんとの食事会に同席させられていた。
姉貴に相談するも、
「そうだね。ずっとそのままにしておくわけにはいかないもんね。
ただ、毎日息子たちの育児で死ぬほど忙しいんだから、私は何もできないよ。
ぜったい無理!健一に任せるから何とかしてよ。」
と、けんもほろろに撃沈。
まぁ姉貴も嫁に行ったんだからしょうがないか。
空き家になった実家を解体するって言っても何から手をつけたらいいか分からないし……、とりあえず地元の町会長をやっていて、昔から可愛がってもらっていた三郎兄さんに相談してみよう。
「もしもしサブさん?俺、健一。ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
「おう健一か!このあいだは三回忌ご苦労さんだったな。なんだ相談って?金なら無いぞ。」
「違うよ。サブさんには金の期待はしてないから。
実はハツヨ婆さんからスゴイ勢いでクレームの電話がかかってきて、
姉貴とも話し合ったんだけど、じいちゃんの家を解体しようと思ってるんだ。」
「あの婆さん、毎日近所に文句を言いふらしてるらしいぞ。
しかし、なんでまた?何とかそのまま残す方法を考えないのか?
お前ら姉弟の思い出がたくさん詰まった家だろうが。」
「そうなんだけど、将来戻って住む予定もないし。
今はたまに帰った時の雑草の管理だけでも大変だし、
最近は空き家だってことが地元の中学生にバレたみたいで、
勝手に入ったりしてるらしいんだよ。」
「それなら俺に任せとけ。行ってどやしつけてやるから」
「いやいや、そうじゃないんだ。そのままにしておいても問題を先送りするだけだから、解体してしまおうと決めたんだ。」
――『問題の先送り』。課長からよく指摘されることだけど。
「分かった。だったら竜二に連絡させるから、ちょっと待っとけ。
同じ町内会に親父の解体屋を継いで、今は一丁前に社長をやってる奴がいるぞ。
よく言っておくからな。」
リュウジさん……? 初めて聞く名前だ。