《解体小説》建替え編・第一章
第一章 「二世帯住宅への道」
―半年前―
「二世帯住宅ってどういうこと?」
「だってこのままお袋を独りにして、また入院したら大変だろ?
弟のヤツも実家に戻る気はさらさらなさそうだし、俺たちが一緒に住んでいたほうが何かと安心じゃない?」
「それは確かにそうだけど、藪から棒にそう言われても『ハイいいですよ』とは答えられないし、それに私の立場をよく考えて!
仕事のこともあるし、子供たちはこれからますます手がかかるんだから。」
「分かってるって。その辺はちゃんと考慮するし、俺も家のことはこれまで以上に手伝うようにするよ」
お袋はそのうち老健ホームに入るから一緒に住んでもらって面倒をみてもらう必要はない、とは言ってある。しかし、やはり独りにしておくのは心配だったため二世帯住宅にすることを考え始めたが、少し根回しが足りなかったのかもしれない。
確かに嫁の言い分も分からなくはない。嫁姑の関係は悪くはないが、かといってすごく親しい訳でもない。
これまでは離れて住んでいたこともありこれといって問題はなかったが、一緒に住むとなると普段はまったく周囲に気配りをすることがない嫁でもさすがに気を遣うことになるだろうし、それなりの覚悟は必要かもしれない。
これは俺が間に入ってしっかり調整しなければならないな。いやはや、気が滅入る一方だけど仕方がない。ここは一丁頑張るか!
――と思ってはみたものの、いつもの面倒くさがりな一面が頭をもたげ、なかなか行動に移せずにいるのが現実。やっぱり俺には任せておけないとのことで、お袋と嫁のふたりだけで何回か会い話し合ったらしい。
なんだか仲間外れにされた気分だったが、まあ良しとしよう。
後日3人で会った時には、すでに大まかなことは決まっていて俺としては立場がなかったが、話を聞くと、多少意見の相違はあったものの最後は嫁が折れてくれたようで、二世帯住宅を建てるということで話はまとまった。嫁にでっかい貸しを作ってしまったものの取り敢えずは一歩前進といったところだろう。
二世帯住宅を建てる上での条件は、
①建替え総費用は3,500万円以内
②玄関別の完全二世帯
③子供の面倒は基本、自分達でみる
④要介護になったら施設に入る
といったものだ。
①の費用負担については、自分達が2,500万円、お袋が1,000万円となった。費用には建築・解体はもちろん、引越し代や家財品の購入費なども含めるので、結構ギリギリかもしれない。でもこの金額が妥当なのかイマイチ判断できない。
②はプライバシーのこともあり、嫁がこれだけは譲らなかった。もちろん電気・ガス・水道のメーターも別だ。だが1階と2階を行き来する時にわざわざ玄関から入らなくてもいいように内扉は付けることにした。
③は子供たちが病気で学校を休む時や、次男が急な発熱などで保育園に迎えに行かなければいけない時など、お袋が家にいる場合は引き受けてくれることになった。今まではどちらかが会社を休んだり早退して迎えに行っていたから、これは非常に助かる!
そして問題の④だが、自分としては施設に追いやるようでかなり後ろめたい気持ちがあった。しかし、お袋が頑として聞き入れなかったので致し方なし。いずれその時が来たらまた話し合うことにしよう。自分の子供にならまだしも、息子の嫁に面倒をみてもらうのはお袋としては気が引けるようだ。
そんなもんなのかなぁ……。俺なら何も考えずにお願いしちゃうと思うけど。これってかなり迷惑なんだろうか?
上で挙げなかった中で、一番大きな問題になりそうなのが相続の時だろう。いくら俺がお袋と一緒に住むことになると言っても、今のところ介護の世話までするわけでもないし、弟としては当然、自分の相続分は求めてくるだろう。
俺もそんなことで『争続』にはしたくない気持ちが強いが、二世帯住宅を建ててしまったら土地や家を分割するのは難しそうだし、これは非常に頭を悩ます。おそらく相応の金銭でということになるのだろうが、その辺りは今後、弟とよく話し合っていかなければならないな。
何はともあれ二世帯住宅を建てるということは決定したんだ。あとは俺が行動に移すのみ。
まあ、本当はここが一番の問題点なんだけど。