《解体小説》内装解体編・第五章
第五章 「業者の本音」
着工まで、あと十数日。
この間に処分できるものは極力運び出そうと、毎日遅くまで作業をしているうちに「これだけやって83万円も持っていかれるのか?」という思いが日増しに強くなっていた。
そう思い始めると居ても立ってもいられず、携帯電話から業者の番号を呼び出した。
「先日、美容室の解体費用を見積もっていただいた戸坂と申します。担当の豊田さんをお願いできますか?」
「……ああ、美容師さんの。豊田です、どうかなさいました?」
「簡潔に申しますと、再見積もりをお願いできないかというご相談なんですが」
「再見積もりですか……。あー、お荷物が少し減ったとか?」
歯切れの悪い物言いに、つい語気が強まってしまう。
「それもありますが、83万円という金額はあまりにも高すぎるんじゃないかと思いまして――」
「いや、正直これでもギリギリなんですよ。……ここだけの話、不動産経由なんで、ウチからも結構ごっそり持ってかれるんです。5万円までならな何とかお値引き頑張りますんで、これで勘弁していただけませんか?」
金額交渉の気配を察したのか、豊田は畳み掛けるように言い訳を始めた。へりくだった態度ではあるものの、声色からこれ以上金額について話し合う意思が無い様子はひしひしと伝わってくる。
こんなことだろうと予想はしていたが、あまりにもあっさりと事情を吐露する彼に、呆れを通り越して拍子抜けしてしまった。
その後、かなり渋られながらもさらに3万円を値引かせた後は、いくら掛け合えど「それでは赤字だ」とオウムのように繰り返す豊田。これ以上のやり取りは無意味だと判断し、仕方なく75万円で依頼することに決めた。