《解体小説》内装解体編・第六章
第六章 「行き違い」
あいにく、工期の三日間のうち初日と中日は予定が入ってしまっていた。
現場の様子を見に行くことが叶わず漠然と不安を抱いていたが、不動産会社より『工事自体は問題なく進められている』との連絡を受け、ひとまず胸を撫で下ろした。
それでも気がかりなことに変わりはない。最終日には工事開始時間より早く現場へ向かい、そわそわと内部を覗き見ていた。
しばらく眺めていると、一番目立つ場所に設置していた大きな鏡が無くなっていることに気が付いた。
確か、現場に行けないうちに壊されても困るため『あれだけは最終日まで残しておきたい』と豊田に伝えていたはずだったのだが……。
若干の不安を覚えつつも、『口頭とはいえ責任者に言い伝えたのだから、すでに車に積むなりしてくれているだろう』と思い直すことにした。
「あ、戸坂さん。いらっしゃってたんですね」
現れたのは、まさにその豊田だった。これはいい機会だと鏡の所在を問う。
「そうだ、見積もりの時にお願いしていたあの鏡。どこかに取っておいてくれてるんですよね?」
「鏡……? ああ、そういえばおっしゃってましたね。あれ、内部には残ってないですか?」
「いや、さっき見た限りでは見つけられませんでしたけど……」
「そうですか。戸坂さん、私ね、実は今日が工事始まってから初めての現場なんですよ。ちょっと担当した職人に聞いてみますんで、少し待ってていただけます?」
彼の口ぶり、かわし方、今日が初めての現場だという事実――。
どれをとっても、不穏な気配しか感じられなかった。
彼が向かった先、トラックの方を見遣ると、何やら小声で職人の一人と会話をしていた。
盗み聞くつもりはなかったが、つい耳をそばだててしまう。
『――だから、初日に電話で伝えただろうが。どうするんだよ……誤魔化しきれないぞ、これ』
『すみません! 完全に意味を取り違えてました――』
嫌な汗が流れる。
その大鏡は同期達が贈ってくれたものだ。開店当初、期待を胸に外からでも見えるような位置に苦労して取り付けた思い出付きでもある。
……しかし、起きてしまったものは仕方がない。二人の会話に居たたまれなくなったこともあり、半ば強引に割って入った。
「あの、事情は何となく分かりましたんで、落ち着いてください。聞いた感じだと……豊田さんから職人さんにきちんと伝わっていなかった、ということですよね?」
「あっ、ええ……まぁ。俺はしっかり言い聞かせたはずなんですがね。コイツがやらかしまして――ほら、謝れって」
「申し訳ありません……」
解体サポートからの解説
「確か、現場に~はずだったのだが……。」
重要な内容はメモを取るなどして書面に残すことが何よりも大切です。
後になって「言った・言わない」の行き違いになることを避けるためにも、お見積り段階・契約時にしっかりと確認しておきましょう。
特に多いのは、エアコンの撤去に関する「言った・言わない」。
内装解体では「どこまで解体するのか」「何を残すのか」、これらの認識を貸主側・借主側できちんと共有できているかどうかが鍵となります。
【POINT】「認識の相違」はトラブルの元。重要な事柄は互いに納得した上で必ず書面に残しましょう。