面と向かってじっくりと彩子を見たが、三十路を超えた今でも見た目は相変わらず申し分なし。
会社でもその「見た目」に関しては評判がよく、まさかこの俺と付き合っているとうちの課長が聞いたら腰を抜かすだろう。
しばらくとりとめのない話や職場の愚痴を聞いた後、彩子がいつもの生グレープフルーツサワーのおかわり頼んだ後にこう言った。
「そういえばお祖父さんのお家、取り壊すんだって?」
「えっ?なんでそんなこと知ってるんだよ?」
「このあいだ、お姉さんから聞いたのよ。」
げっ。 彩子は姉貴がアパレルの店で働いていたころの顧客と店員という関係から、10数年経った今でもLINEで連絡を取り合っているらしい。
しかし、相変わらずの情報収集能力。
その力は仕事でも存分に生かされ、今や彩子はマーケティング部の課長だ。
「とうとう健一の身にも『空き家問題』が来たのね。」
「空き家問題?」
「知らないの?新聞もろくに読んでないからよ。 今や全国の空き家は社会的な問題になっているのよ。 しっかりしてよ~。」
まったく、姉貴も余計なことを彩子に言うなよ。
「社会問題かどうかは俺には関係ないよ。ただ、家を1軒壊すだけじゃないか。」
「はぁ……。やっぱり知らないのね。この前の法改正で空き家を持っているだけでも負担が増えることがあるらしいわよ。」
「負担が増える?どういうこと?」
「詳しくは調べればわかると思うけど、固定資産税が上がるらしいのよ。」
「ん?なんで?」
生グレープフルーツサワーが5杯目に差し掛かると彩子は突然つっかかってきた。
「知らないわよっ!なんでも人に聞いて何なの!?
自分のことなんだから自分で調べなさいよ!
だから健一はいつまでたってもうだつがあがらないって言われるんじゃないの?
それより、私たちこれからどうするの?どうしたいの?
健一の考えをはっきり教えてよ!!」
……彩子はこうなると歯止めが効かなくなる。
「だってそうでしょ!?私たち10年も付き合ってるのに、 健一からは何も言ってくれないじゃない。私もう32歳よ!」
「この間親御さんに会ったじゃないか。」
「なによそれ!」
「それが答えだ。」
「意味わかんない!」
「とにかく、もう少し待ってくれ。今はじいちゃんの家をどうするかを早めに決めなきゃいけない事情があるんだ」
「もう!いつもそうじゃない。――でも、なんでそんなに急いでいるの?」
こんな感じで、頭の切り替えが早いことが彩子のいい所だ。
ここで、竜二さんの話をかいつまんで彩子に話した。
「なるほどね。地元の人なら、ある程度融通を利かせてくれるんじゃない? でも少し気になる事もあるから、私なりに調べてみるわ。 竜二さんって人に出してもらった見積もり、私のアドレスに送っておいて。」
『仕切りたがり』の性分が出たせいか、また彩子のペースに持ち込まれてしまった。